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bookレビュー
 

「整形美女」

新潮社【発刊年月】99/01  
<大絶賛>
 老天才芸術的整形外科医、大曽根のもとに、彼の美意識をして完璧な美貌、プロポーションと驚嘆させる繭村甲斐子が訪れる。ところが、甲斐子は顔の全てを含む全身の美容整形を申し出るのだ、ブスであるという状態から抜け出す「計画」のために、と。当惑する大曽根。
 もうひとりのヒロイン望月阿部子は、甲斐子と同郷の同級生、豆粒のような目で上向き加減の低い鼻と小さな口、「清潔な色気」のある屈託のない女だった。
 一方は確固とした意志を持って、他方はふとした弾みで美容整形する。二人の驚愕の再開。そして甲斐子と阿部子の二人はそれぞれに新しく”美女”の生活を始める。整形した外面は少しずつ二人に影響を与えてゆく・・・。
 美容整形業界の闇、整形美女の悦びと葛藤を描ききって、美容整形に潜む不倫をも喝破している。定評ある達者な筆致と、笑いありサスペンスありの冴えた構成とが長さを感じさせない。
 それぞれの「整形”美女”」が直面するエピソードに託して次々に展開される「美人とは」、「色気とは」、「幸福とは」、「男女のつきあいとは」等々の問いかけに対する答えは、いかにも姫野カオルコならではの明解さだ。意表をつくが、なるほど真実なのである。「清潔な色気=うっすらとした不潔感」などなど哲学的ですらあるほど。美人を取り巻く男のひとたちにも読んで楽しんでもらいたいものだ。
 本作では、温厚な老医師大曽根と透徹な作者との二つの神の視点を用意し、甲斐子と阿部子それぞれの”美人”どちらにも、透き通った悟りにも似た、容認と静かな幸せを与えている。この世の悩める美しい女達への救いのファンタジィとなるだろう。
 (11.05.12 なつせ)
 
 
 整形美女
<極私的感想>       
 <大絶賛>は、「小説のホメ方としては逆やろ。」と指摘がありました。なるほど大事なことを忘れていました。       

 これは面白い小説です。基本的にはコメディ。「受難」や「レンタル」のように。       
 姫野カオルコのファンならピンとくる、もてない正統派「美人」と、男を引きつけてやまない「清潔な色気」のある女の話だ。 
 神々しいまでの美貌の甲斐子が、「清潔な色気」のある「かわいい女」になりたい、オトコに選ばれたい、という「計画」を立てて、整形してしまったら・・・。全編ツッコミとギャグだが、美容整形業界の実状、整形美女の内面にも深く踏み込んでいる。       
 笑いありサスペンスあり。やや重いテーマを内包しているような気がして少し考えたりもするけれど、すっきり読める。ヒロインの成長もある。悲惨な結末にはならない。まるで上等な映画のエンディングを見るようだ。笑っていて良いのです、読んでる間は。       
 ヒメノファンにとってはお約束の「清潔な色気=うっすらとした不潔感」、「美人はもてない」などなどの話もじっくりと微苦笑を誘うように書き込んである。姫野カオルコ作品になじみのない人も納得し、楽しめるだろう。       
 ふとしたことから整形して派手な美女になってしまった阿倍子と、「計画」にのっとり「清潔な色気」をまとう甲斐子の二人が参加する「異業種交流会」(コンパね)のくだりなど圧巻である。すっかり華やかな対応が身に付いた阿倍子を評して「阿呆にしかもてないのよ、阿倍子さんは」なんて大笑いだ。イタイけど。       
 甲斐子や阿倍子が「美しさ」に振り回されるのは、彼女たち自身のせいばかりではあるまい。表だって糾弾されてはいないが、男達のチープな美意識、センスのせいとも言える。三千代(大曾根の妻)に対する大曾根は、もはやいないのか。3人程もいれば良い、わずかでも自信と自尊心があれば、直球をどーんと受けて立て。玉砕するかもしらんが。       

(11.06.04/06.24:一部改訂 なつせ)
 

 

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