bookレビュー
 

『レンタル(不倫)』

角川書店【発刊年月】96/07  
<大絶賛>     【注意】一部ネタばれあり。
 『不倫』と書いて『レンタル』とルビを振る。
単行本のオビに
さよなら教えて
 甘ったるい恋愛小説を凌駕する恐るべき純愛物語
 独自の感性で綴った全く新しい文学の誕生」
 んで、姫野カオルコ。
 どんな「純愛」物語であろうかとドキドキする人もいるだろう。
 「私は男に飢えていた」の『喪失記』が処女三部作の第二部なのだしね。そしてこの第三部だ。姫野さんは、そんな期待?を軽々と裏切る。
 3ページ読んで驚嘆。文章のタッチがちょっと違う。 

 三十路で独身で処女のアッシュ小説作家、力石理気子はきっと姫野さん本人にとても近いのであろう。既婚者の霞雅樹と恋愛することになるのであるけれど、いかんせん「つきあう」に慣れていない。
 霞と御飯食べて、お酒を飲んで、「どこかへ行こうか」と言われて、「じゃあカラオケ」と応えてしまう理気子である。霞のリードがどれほど巧くても、ステップをまるで知らないと社交ダンスは無理。
 霞はユリイカ野郎であって、手慣れた甘い恋のセリフを次々に繰り出すが、理気子には利かない。恋愛の駆け引きに反応できない理気子はどうやって関係を進展させるのだろうか。霞もさぞやりにくいことであろう。
 ある時、理気子は、霞が買ってくれた黄色のバラを見て、花言葉「あなたが大嫌い」とつぶやく。図らずもおフランスしたことがきっかけに、長年の懸案事項を遂行するのだった。そして、いつか来る別れの予感。 

 理気子と霞の他、担当編集者の星野と、その妻であり、かつ理気子の友人でもある星野えりかもそれぞれに不倫している。彼らのありがちな恋愛模様を描くことにより、「つきあい」の美学、スタイルに鋭いツッコミを入れている。
 姫野カオルコは「恋愛小説」というジャンルのおいしい部分、すなわち気の利いた誘い言葉、駆け引き、はっきいりしない、せつない、微妙な、星、花、鳥、雪、嘘、苦悩、等「つきあう」のデティールを「フランス式の手間」、「電通のパッケージング」と揶揄している。本当に、「甘ったるい恋愛小説を凌駕する」恐るべき純愛物語なんである。 

 私も、これらの恋愛の「手間」の甘さを一定認める。けれども、メディアというカタログに載っている情報の収集と提示、消費が、「つきあう」の内実であるなら、二人の間にあるのは、もはや言葉ではなくデータ、心ではなく物でしかないだろう。
 理気子と霞が心通わせるデートは大阪の○○○。
 別れに送る熱い○○。
 きっついギャグだが、見事なアンチテーゼといえる。(でも、霞はちゃんと理気子を好きだったのだけれどね)
 霞に熱い○○を送る前の、理気子のモノローグは圧巻である。自分の不遇な状況すらきっちり引き受けて本当のことを直視する。姫野さんならではの純愛。姫野さんならではのロマンチックだ。 
 処女三部作は、第三部まで読め。元気が出るぞ。

(なつせ 99/07/09)
○○○は新世界。○○は拳骨。
 ところで、霞さんのセリフは麗美な単語の集合体です。句読点もなく続きます。
 霞の話す言葉は、彼の手紙の添削後(「トルツメ」のところ)と同じく正味が薄い。流麗・難解な単語に象徴される心理的ブランドが、身に滲みてないんだと思います。物品的ブランドについては、本作では直接には語られまていませんが、フ。
 (何かスカした著作のパロディのような気がするのですけれども、私の教養が足りません。:01/02/15)
 
 

 

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