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bookレビュー
 

「受難」

姫野カオルコ 97.4文藝春秋社  
<大絶賛>  
 ひとりで地味に暮らす在宅プログラマーの乙女。厳しい修道院でしつけられた戒律を守って質素に暮らし、人からフランチェス子と呼ばれるくらいだ。彼女には女としての自信が欠落してしまっている。男に性欲よりも先に理性を立たせてしまう乙女。そんなフランチェス子の股間に、人面瘡の「古賀さん」がとりついてしまい、彼女を「ダメ女」と罵るのだ。 

 フランチェス子の股間には人面瘡の「古賀さん」。登場する「普通の」女が、アン子、ノン子、ウィズ美、モア代、オリ江。男は、マル、クスに朝志、読夫。 
 シュールな設定、人物のネーミングからして「ギャグですよう」と言っているようなものなのに、飄々とした語り口に奇妙なリアリティとユーモアがある。倫理的論理的なフランチェス子と偽悪的な人面瘡:古賀さんとの物語世界にすんなりとはいってしまう。 
 それぞれに極端な二人の共同生活を通じて「女としての価値」、「つきあうということ」が語られる。姫野作品ではなじみのモチーフだが、これまでよりぐっとライトでちょっと深い、そしてちょっとかなしい。 
 本来極めて個人的なものである恋愛や性愛が、社会的に規定される「女らしさ」や、「関係」にいかにからめ取られているかが、淡々とした、しかしまた奔放でもある筆致によりコミカルに描き出される。ある意味では、フランチェス子自身も例外ではないのだが。 

 ラストは、感動的に盛り上がりつつも、急にドタバタぽくなるので多少違和感を感じるかもしれない。 
 「あなたの名前はジークフリート!」 
 しかし考えてみると、小さくまとまったハッピーエンドでは却って嘘臭くなってしまいそうだ。そう、ファンタジィのエンディングのテーマ曲には「いつか王子様が」がふさわしい。 
 ”あなたにもきっと、王子様がやってくる” 

(11.07.23 なつせ)
 
 
 

 

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