E-listBBSSearchRankingMilkyway-KaiganGo to Top
 
 

 

ファンサイトの皆様へ

姫野カオルコ さん インターネット寄稿 

〈無推敲・無構成の雑談シリーズ/vol.1〉
  みんなのうた
          2000・10・17 姫野カオルコ

「みんなのうた」。しらずしらずのうちに、みんなのこころに刻まれている歌。
だから、なにかのはずみで、ふと「刻み」が表に出たりするとうれしくなる。
たのしくなる。
 なにが、たのしいんだろう。どう、たのしいんだろ。わからない。でも、な
んだか、たのしくなる。
 前回か、前々回の芥川賞を受賞した藤野千夜さんのデビュー作で「地球をま
われ、七回半まわれ」というフレーズを頻出していた。
「みんなのうた、の歌でしたね」と、おたよりしたらすごくよろこばれた。 
「ずっと、頭に残っていて、でも、どこでおぼえた歌だかわからなかった。わ
かってうれしい」という返事をくださった。
 こんなふうに、しらずしらずのうちに刻まれる「みんなのうた」。
 みんな、それぞれに、「なぜか印象にのこってる歌」というのがある。
 私にもある。

 たとえば、「ドラドラキュッキュ、ドラドラー、ドラキューラー」という、
蚊の歌。蚊が蚊帳のすきまをはいっていくアニメがついていた。
 ちょうど、「ソウル・ミュージック」という語が日本でやっと普及したころ
だった。「ヤングな人」には信じられないかもしれないけれど、「ソウル・ミ
ュージック」という語自体が「???」と思われてたころもあったのである。
やっと普及したころ、フジテレビ『スター千一夜』に草苅正雄がゲスト出演し
た。そのころ草刈は「ギャルのあいだで人気ナンバーワン」といった存在だっ
た。『スター千一夜』は『クイズ・グランプリ』という夜の7時半から15分
だけある帯番組のあと、7時45分から15分の番組だった。提供は旭化成だ
った。司会は関口宏が多かった(司会も日によってかわる)。
 ゲスト出演した草苅正雄は、「ソウル・ミュージックですね」と答えた。
「好きな音楽はなんですか?」という質問に対して。司会は関口宏ではなかっ
た。女の人だった。
 草刈の答えが「さすがは、ギャルに人気ナンバーワン」と感じさせるほどだ
った時代である。

 おなじころ、バン・マッコイの『ハッスル』もヒットしていた。最近、ビー
ルのコマーシャルのBGMに使われたが、ルールルールーという女声コーラス
にときどき「ジョイ、ハッソー(←ハッスルのネイティブな発音)」という、
かけ声(?)が入る曲。ビールのコマーシャルを見て、商品のほうではなくB
GMに気が行った人は同世代だろう。
 ビートルズやストーンズとはちがって、「限定された世代だけに熱狂支持さ
れた音楽」というのがあるのである。ポルナレフのように。いっしょにすると
怒られるかもしれないが、ベイ・シティ・ローラーズとかフランス・ギャルと
かダニエル・ビダルとか。

 『ハッスル』と、だいたいおなじころ、『ソウル・ドラキュラ』というのも
はやった。「ソウル、ドラクラー、ウハッハッハッハッハー」と不気味な笑い
声の入るやつだ。
 あの曲で、私たち7チームは創作舞踏した。高校の体育祭で。
 7チームというのは1年7組と2年7組と3年7組のこと。このあんばいで
1年6組、2年6組、3年6組は6チーム。以下同様に、5、4、3、2、1
チームで競った体育祭。たのしかった。
 家の中がたのしくなかったぶん、学校でリハビリしていた私だった。のんび
りした校風の、たのしい高校に通えたことは、つくづく財産だと、今、思う。

「みんなのうた」は古い番組である。
「ヤング」な読者なら、まだ生まれていないころには、「ひょっこりひょうた
ん島」の始まるちょっと前にオンエアされてた記憶がある。いや、ひょうたん
島の終わった後にちょっとだったか。
 NHKって、○時きっかりから始まらず、○時50分からとか、○時20分
とか、へんてこな時間から、はじまる番組が多かった。
 金曜日には『歌はともだち』というのがあって、オープニングが「ひとりの
ときはソロで、ふたりのときはデュエットで、さーんにんよーったらトリオだ
よー」という歌の番組があった。あんまり好きじゃなかった。
 たしか木曜日には『かっちん』というのがあった。たぶん、リンドグレーン
作の『名探偵カッレくん』の日本版焼き直しだったと思う。
『五人と1匹』という、なかよしグループと、グループのひとりが飼っている
犬がいっしょになって事件を解決するドラマもあった。

 そんなころの「みんなのうた」では、「白鳥の歌」がよくかかった。正確な
題は「白鳥の歌」ではなかったかもしれない。「海ーで育った鮭たちはー」と
いう部分があったような気がする。それが川にもどって、冬が来て白鳥が飛ぶ、
みたいな歌詞だったような、ちがったような。
「海よ、大空よ」とかいう部分もあった気がする。「ラ・ゴンドリーーナ」と
いうフレーズの部分がサビになっていた歌だった。

 小学生(小学校3、4年)のころのことである。ちょいと前までなら、なに
かとよくおぼえていたのだが、最近はものわすれが激しく、なにもかもいろん
なことを、よく忘れる。
 おなじころに、「まっすぐの歌」というのもなかったか? 「まっすぐーに
まっすぐーに、まっすぐーにね」とこのあたりは明るく進んでいって、転調し
て、ちょっと厳しい曲調になって、「まっすぐーはぶつかるー、まっすぐーは
ぶつかるー」とつづく。〃ぶつかるけど、でも、まっすぐ、ぼくは進みたい〃
みたいな主旨の歌詞だった。

 けっこう好きだったのに、近所にすむ「明るい姉妹」が、この歌をきいてげ
らげらら笑いをしたのが、心外だった。「まっすぐはぶつかる、やて。あたり
まえやんかー」と。メタファーというものをまるで解さない、明るい姉妹だっ
た。
 この姉妹のことは、『小説クラブ』にエッセイを連載していたときに、くわ
しく書いた。とにかく、明るい姉妹なのである。ただし、私は「明るい」とい
う語を「さわがしい、元気、にぎやか」という意味では用いない。

 「まっすぐの歌」とともに、よくかかったのが「まっかな夕焼けの歌」。中
山千夏がうたっていた。「今日もー、抜き打ちテストをさっれったー、やった
ーつもりがやられちまーたー。くやしー涙をこらえて帰ったー。空は、まっか
な、まっかな、まっかな、まっかな夕焼けだーったー」とかいうような歌詞。
「まっかな、まっかな」の部分は半音上がっている(#)。

 そういえば、「みんなのうた」で自作の歌を演奏、歌っている人が『変奏 
曲』のファンであるらしい。うーん、なんという人だったっけか。おそろしい
ことに、この情報を人から聞いたのはつい半年前であるにもかかわらず、もう
名前を忘れている。急降下でものわすれが進んでいる。どうしたらいいのだろ
う。その人のサイトがあって、そこに書いてあった、と教えられたのに……。

 というわけで、「みんなのうた」にまつわる雑談でした。推こう、構成しな
い乱文、お許しください。
 つづいてマギー司郎についても書こうと思っていたのですが、疲れたので、
また次回にします。マギー司郎好きなんです。色紙にサインもしてもらって持
ってるくらい。舞台でお手伝いの人になったこともある(←よく、「じゃ、会
場のみなさんでだれかに、ちょっと選んでもらいましょうか」みたいに言われ
るときあるじゃない? そのとき、ハイハイって手をあげて選んでもらった 
の)。
 マギー司郎を好きだというと、また、「蕎麦屋の恋」の担当編集者に「姫野
さんでも安藤くんがかわいいってわかるんですかっ?」と訊かれるから、セイ
ン・カミュも好きだと、最後に加えておこう。セイン・カミュさん、いい男だ
よね。
 では、次回の「無構成・無秩序・無推こうの雑談シリーズ」はマギー司郎、
明るい姉妹ということで、つづく……。

                    text 姫野カオルコ
 
 

 
inserted by FC2 system